「養生」、それは心身が本来あるべき姿でいられるよう、
常日頃から食や生活習慣に気を配り、自然と調和した暮らし方を心がけること。
病気になってからあわてて医療に頼るのではなく、
セルフケアで自然治癒力を高く保ちながら暮らすことこそ、人生の質を高める近道です。
私たちゆらぎスタイルは、里山の自然と日本の歴史に学んだ
「古くて新しい」知恵を原点に、健康長寿社会の実現に貢献したいと願っています。
私たちの企業活動を方向づけたのは、箕面の奥深い里山で出会った「実生ゆず」。
奈良時代から、薬用植物として日本人の暮らしに深く根づいてきた原種ですが、その驚くべき効能の数々は、今ようやく科学的に検証が進んでいるところです。
「地産地消」が持つ価値。「ホールネス全体性)」を見失わないことの大切さ。
そして、豊かな里山資源を次世代に伝えていく使命。
すべては実生ゆずが教えてくれたことばかりです。
私たちのものづくりは、たくさんの人の手に支えられています。
奥深い里山に分け入って、実生ゆずの栽培に尽力してくださる生産者の方々。
収穫した果実を手作業で分別加工してくださる方々。
ゆらぎスタイルでは、それらの仕事の輪に、
障がい者やメンタルヘルスの悩みを抱えた若者を迎え入れ、
彼らの社会復帰を後押ししてきました。
また収穫期には、地元のシニアや小中学生たちにも加工体験に参加いただいています。
「実生ゆず」を囲んで、人が生きる力を取り戻していく姿。
それは、私たちにとって希望そのものです。
「実生ゆず」。それは一粒のタネから発芽し、長い年月をかけて枝葉を伸ばして育った希少な原種。ゆずは「続日本記」にも登場することから、奈良時代にはすでに中国大陸から朝鮮をたどって渡来したと推測されています。以来、実生ゆずは多品種と交配されることなく、ピュアな遺伝子を1200年以上にわたって受け継いでいるのが特徴です。カラタチなどの株に挿し木して人工栽培される一般的なゆずが、約3年で収穫に至るのに対し、実生ゆずは結実までに18年もの歳月を要します。古くから知られている「桃栗3年、柿8年」のことわざの後ろに、「ゆずの大馬鹿18年」と続くのはそのせい。長い時をかけて直進性の根を地中深くまで伸ばし、古い地層の栄養を吸い上げながら、200~300年もの樹齢を重ねるのが実生ゆずです。
パワフルな生命力を宿した大ぶりな果実は、日本では古くから薬用植物として活用されてきました。その効能は、平安時代に記された日本最古の医学書「医心方(いしんぼう)」にも記述が見つかるほど。そこには、ゆずが飲食物の消化吸収促進や、切り傷の治癒、熱や咳や嘔吐の鎮静、膀胱炎や下痢の症状改善に役立つのに加えて、「精神を聡明にし寿命を延ばす」と書かれており、驚くほどマルチ。日本各地の古い屋敷の庭に、ゆずが多く植えられていたわけが伺えます。
実生ゆずのすごさは、果肉だけでなく、果皮、ワタ、袋、タネに至るまで栄養満点で、捨てるところがない点。そこで、ゆずのそれぞれの部分にどんな成分が含まれているか、代表的なものを見てみましょう。
果皮
・肌のシミ・くすみ改善にいいと言われる「βクリプトキサンチン」
・鎮静効果や脂肪分解作用が期待できる香り成分「リモネン」「リナロール」
・メタボ予防への働きやがん抑制作用が期待されている「オーラプテン」
・血圧上昇抑制、脳卒中や心筋梗塞の発作予防への働きが期待されている「ヘスペリンジン」
・抗酸化に欠かせない「ビタミンC」
ワタ・袋・スジ
・うるおい美肌が期待できる「ペクチン」
・血圧上昇抑制、脳卒中や心筋梗塞の発作予防への働きが期待されている「ヘスペリンジン」
・抗酸化に役立ち、がん抑制作用が期待できる「ピネン」「ナリンギン」
果肉
・抗酸化に欠かせない「ビタミンC」
・疲労回復に役立つ「クエン酸」
タネ
・抗酸化やがん抑制作用が期待できる「リモニン」
・鎮静効果や脂肪分解脂肪分解作用が期待できる香り成分「リモネン」
・うるおい美肌が期待できる「ペクチン」
・血圧上昇抑制、抑制、脳卒中や心筋梗塞の発作予防への働きが期待されている「ヘスペリンジン」
酸化とたたかう、「ファイトケミカル」
近年、「第7の栄養素」と呼ばれる植物由来の抗酸化物質「ファイトケミカル」に注目が集まっています。その理由はずばりアンチエイジングや生活習慣病予防効果。私たち人間は酸素を吸い体内でエネルギーを生成して生きていますが、その過程で酸素の一部は活性酸素となります。活性酸素はある程度は必要なものですが、必要以上に増えると健康な細胞にまで少しずつ酸化作用をもたらします。これがしばしば「体のサビ」とたとえられる老化の原因であり、がんや生活習慣病の引き金ともなるのです。ゆずにはそんな酸化に対抗する「ヘスペリンジン」や「ナリンギン」「ペクチン」といったファイトケミカルが豊富に含まれています。
つらい関節炎やリウマチにも
関節炎やリウマチなど、つらい痛みはQOL(生活の質)の低下を引き起こします。ゆずには抗炎症や鎮痛作用を持つと言われる「リモニン」「ノミニン」のほか、血液をサラサラにしたり毛細血管毛細血管を強くしなやかにする作用が期待できる「ピネン」「リモネン」「ヘスペリンジン」などが含まれています。ゆらぎスタイルスタイルではこの2つの相乗効果に着目し、患部の血行を促進し、痛みを和らげるセラピーを高齢者施設などで行っていっています。
皮膚を守り修復する「ゆず種子エキス」
シミやくすみ、肌荒れといったトラブルのない肌を保つための心強い味方が、ゆず種子エキス。ゆらぎスタイルが専門研究機関に試験を依頼したところ、ゆず種子エキスには、①メラニンの生成抑制作用、②細胞賦活作用(細胞を活発に増殖させる作用)」、③コラーゲン産生作用、④保湿効果⑤美白効果などにおいて有用性が認められました。また、近年は高知大学や大分大学などから、「ゆず種子エキスにはアトピー性皮膚炎の症状を抑える効果がある」との研究発表もあり、期待と注目を集めています。
参照:株式会社バイオリサーチ社による試験報告書
大阪大学発バイオベンチャー 株式会社エバンスによる試験報告書
「ゆずソルジー」とは、実生ゆずを活用してゆらぎスタイルが開発したオリジナルケア剤。ゆず果皮から抽出した精油や芳香蒸留水、種子エキスなどが含まれています。これまで自社サロン「ゆらぎスタイル」での施術はもちろん、高齢者施設への出張セラピーで、も使用され、その効果を多くの方に実感いただいています。褥瘡の改善をはじめ、脳卒中の後遺症で麻痺を起こしていた手の筋硬直が、ケアによって改善されたケースなど、驚くべき実例がたくさん。ゆらぎスタイルでは、この「ゆずソルジー」の使用法と手技を身に着けたセラピストの育成に力を入れ、自然治癒力を高める暮らし方の提案を、広く地域社会に向けて行っていきます。
ゆらぎスタイル代表の岡山栄子が初めて「実生ゆず」なるものの存在を知ったのは、2009年のこと。一般的なリラクゼーションサロンとは一線を画したケアをめざし、植物療法+整体を融合させた「統合医療」に舵を切ってしばらく経った頃でした。
予約の取れない人気サロン経営者として成功をおさめながらも、岡山は「このままではいけない」という物足りなさを感じていました。その理由は2つ。岡山の手の届く範囲でケアをしているだけでは、いくらサロンが成功しようとも、地域社会の健康向上にまでは至らないこと。そして植物療法に使う精油が海外からの輸入品であったことでした。
そこで2009年に、ゆらぎスタイルはビジネスモデルの改善を図るべく経営革新計画を立案することに。「サロンに来られない方や要介護の高齢者にもケアを提供できるよう、地域で活躍するセラピストの育成に力を入れたい」。その思いは、「yuragistによる心身の健康増進サポートの活動事業」という計画にまとまりました。yuragistとは、自然と調和した暮らしと、心身のホリスティック(統合的)ケアの知識を備えた人のことです。
そしてもうひとつの願いであった「日本の風土に根ざした植物療法」については、思わぬところから出会いがもたらされました。経営革新計画立案のサポート役だった中小企業診断士から、箕面市が「実生ゆず」を地域資源として PR しているとの話を聞いたのです。箕面市在住である岡山自身を含め、地元民にすらまだほとんど知られていなかった「実生ゆず」。それでも「地産地消」に価値があるはずと信じた岡山は、ゆず農家を訪ねてみることにしました。
岡山が訪ねたのは、箕面市の中でもとくに山深い止々呂美(とどろみ)エリア。日本における「実生ゆず」の三大産地のひとつに数えられるところです。実生ゆずはタネが発芽してから結実に至るまで 18 年もの時間を要しますが、その間に直進性の根が地中深くまで伸び、古い地層の栄養を吸って育ちます。不思議と町中では根付かず、ほかの果実が育たないような奥地でこそ育つのですが、その分、実生ゆずの栽培や収穫は大変骨の折れる仕事で、後継者も減っています。しかし守り手がいなければ、ゆずの里は荒れて果実も育たなくなります。2009年当時、すでに地元生産者たちの間では「3年以内に手を打たないと、手遅れになる」と危機感が高まっていました。
実生ゆずの実は一般的な接ぎ木ゆずと比べてずっしりと大きく、香りも強いのが特長ですが、樹には太くて長い刺がびっしり生えていて、その刺によって傷がついた果実は、規格外品になってしまいます。さらに岡山が驚いたのは、売り物にしやすい果汁を搾った後は、すべて廃棄物として処理されていたことでした。油を多く含んだ果皮は、焼却も堆肥化もできず、わざわざ高いコストを払って産業廃棄物として引き取ってもらわなければならない、という状況。これでは、いくら市が PR しようとも、生産者の労力は報われません。
しかし植物療法に関わってきた岡山には、ピンとひらめくものがありました。柑橘であり、油分が豊富であるということは、良質の精油が採れる可能性が高いということです。そこでゆらぎスタイルは、「箕面の実生ゆずから精油をつくる」プロジェクトで大阪地域創造ファンドにトライすることに。
当初は、突然飛び込んできた岡山に、疑いの目を向けていた生産者たちも、岡山が「絶対に途中で投げ出しませんから」と宣言し、何度も里山に手伝いに通う姿を見て、次第に心を開いてくれるようになりました。
大阪地域創造ファンドの助成金を獲得した岡山は、自身の出身校である農業系高校のつてを頼り、校内の実験室を1週間借りて、高校生たちと一緒に精油採取実験に挑みました。精油を蒸留するには、まず実生ゆずの皮・タネ・袋を分別する作業が必要で、これはゴム手袋を二重にはめて行うのですが、不思議なことに、果皮から滲出する油分がゴムを透過し、手肌に付着することに気づきました。岡山がその話を、ある知人にすると、製薬会社で化粧品開発に携わっているその知人はびっくり。その現象は、ゆずの有効成分がすでに「ナノ化」されていることのしるしだというのです。肌への浸透性を高めるために、有効成分をナノ化することに莫大な研究費をかけている化粧品業界からすると、驚くべき事実でした。この発見が、のちにWILD YUZUスキンケア製品誕生につながっていきます。
その一方で、ゆらぎスタイルは2010年から高齢者施設への訪問ケアをスタート。入居者が抱えるむくみや褥瘡などの炎症が予想以上に重いことを痛感した岡山は、「修復機能や免疫力が低下している高齢者でも安心して使えるケア剤をつくりたい」との思いを新たにします。そして2011年、箕面市牧落にて中古物件を購入し、リノベーションをほどこして、工房「ゆずファクトリー」を併設したサロンをオープン。止々呂美の実生ゆずを買い取り、ここで天然精油、芳香蒸留水や種子エキスの抽出を行うことにしたのです。その後、研究者やメーカーの技術者など、多くの人の助けを借り、約 1 年半の歳月をかけて、オリジナルのケア剤「ゆずソルジー」が完成。200名もの入居者を抱える介護施設で実際にこのケア剤を使ってみたところ、「褥瘡ゼロ」を叶えたといううれしい知らせもありました。
「ゆずファクトリー」で働くスタッフには、知的障がいを抱える人や、引きこもりから社会復帰をめざす若者も含まれていました。これは、母校で高校生たちと精油採取実験に取り組んだ時の経験が、大きく影響しています。当時、実験に参加してくれた高校生の中には、自閉症や知的障がいを持ったメンバーも5名含まれていました。初めて会う大人や、初めて向き合う作業に、最初は激しい抵抗感を示していた彼らでしたが、ゆずの皮・タネ・袋を分別する作業を半ば強引にお願いしたところ、2日目、3日目と日を重ねるごとに、彼らの表情がどんどん明るくなり、他のメンバーとのコミュニケーションも活発になっていったのです。普段彼らを見ている自立支援課の先生や社会福祉の専門家ですら、驚くほどでした。「実生ゆずの香りは、脳に生理活性効果をもたらすのではないか」。岡山はそう確信せずにはいられませんでした。
その確信を裏付けるように、「ゆずファクトリー」が受け入れた延べ20名の障がい者や引きこもり、ニートの若者たちは、ここで自信とスキルを身に着け、全員が社会復帰を果たしていきました。その後「ゆずファクトリー」は建物の老朽化により2019年に惜しまれながら閉鎖され、作業は外部の福祉作業所へ委託されることとなりましたが、その8年間の経験は何にも代えがたいものとなりました。
実生ゆずを地域資源として活用すること。その取り組みが、障がいやメンタルヘルスの悩みを抱えた人に自信を与え、社会参加を促すことにもつながるならば、こんなに望ましいことはありません。その循環のかたちは、まさに SDG’s が掲げる「誰も置き去りにしない」という理念にも通じています。
「実生ゆず」に魅せられ、研究を重ねていくのと並行して、箕面以外の実生ゆずの産地とも、つながりが増えていきました。中岡慎太郎がゆず作りを奨励したといわれる高知の北川村や、清和天皇ゆかりの秘境、京都の水尾などなど。そうやって全国のゆずの里をたどっていくうちに気づいたのが、「ゆずの産地のそばには、良質の療養泉がある」ということ。この発見は、岡山に次なる目標を与えました。すなわち「ゆずの里ウェルネスツーリズム」の確立です。
欧米ではすでに「スパセラピー」という温泉・海洋療法がおなじみで、風光明媚なホテルに滞在しながら、入浴にマッサージや運動などを組み合わせたケアが受けられます。「日本にも、そんな予防医学的観点で提供される旅スタイルがあってもいいはず」との思いから、ゆらぎスタイルは「和製ゆず養生SPA」を構想。日本の原風景を語り継ぐ土地を訪ね、地産地消のこだわり食材や温泉を楽しみつつ、「ゆずソルジー」や伝統の鍼灸で、心身を深くケアできる旅です。このビジネスプランは、観光庁と滋賀大学の共催で約半年間にわたって行われた「ウェルネスツーリズムプロデューサー養成講座」にてブラッシュアップを重ね、2019年2月に行われた最終プレゼンでは審査員特別賞を受賞するに至りました。
実生ゆずの不思議な力に導かれて、箕面の里から全国へ。私たちのチャレンジは、これからも続いていきます。
「実生ゆず」の樹々は、里山の奥深く、農機具も入りづらい場所に生えており、その栽培には多くの手間がかかります。また、毎年 11~12 月の収穫期には、果汁を絞り終わった実生ゆずの果実からヘタを取り除くなどの分別加工が、手作業で行われています。それらは決して楽な作業ではありませんが、土が与えてくれるものの価値をからだで感じられる、貴重な時間です。「実生ゆず」や農的里山生活に興味がある方、ぜひ「ゆずサポーター」として、私たちと一緒にゆず農家さんを応援しませんか?